2006.03.03 社長コラム

第11回: 絵描き

ということで、他のチームはいざ知らず、この新たな“隔日のPC作業”は我がペアにとっては全くのモーマンタイだった。まして問題どころか、彼がPC作業をして、私が絵を描くという日も、互いにいろいろとアドバイスをしながら進めていくので確実に腕もスピードも上がるという素晴らしい相乗効果を生み出していった。

そんなある日、彼と帰りに飲みにいこうということになり、軽く近くの居酒屋で過ごすことにした。そして、その時に初めて彼と互いの事をいろいろと話し合えた。これまで交代制ということもあり、一緒に退社するということも稀だった上に、互いにしがないビンボー下積みなので(毎日お茶を買うにも事欠くありさまだった)ブラっと飲みにいくなんて事を実行することができなかった。しかし、折角、一緒に会社も出れるし、給与も出たということだったので、「それじゃ、ちょっと行っとく?」という運びになったのだ。が、給与が出たとはいえ、ブラックマンデーをも凌ぎそうな勢いの薄給の懐具合では、「チビチビ」という擬音語以外に思い当たらない飲み方しかできなかったけども・・・。

この時、初めて彼といろいろな事を話した。互いの経歴、今の仕事、そしてこれからやりたいこと etc ・・・。今思い返してみると、その時、彼と話し合ったモノ作りへの情熱は、結局、今の私を牽引する事になっていると思う。

彼は言った。「よくね、みんな『PCはツールや』っていうやろ(酔うてる)、でもなぁ、大抵のやつが言うばっかりで、ほとんどがPCに頼ってると思わへん?そんなん言うんやったら、もっとアナログでも絵を描いたらええねん。そしたら、もっと3Dも上手くなるのになぁ~。なぁ~そう思うやろ?なぁ~」バッカスもびっくりの酒グセの良さに、こちらもついついドランクモンキーになってしまう。「そうやわなぁ~でも、大抵のやつらは絵が描きたいから3Dやってるんとちゃうやん。ほとんどが“3D”やりたいからやでぇ」「それはそれでかめへんけど、それでは、上達はせえへんよ」「なんで?」 ———なんで?なぜ?Why? 3Dだけやっていても上手な人はいると思うけど・・・。なぜなのか・・・・・・・・。「それはなぁ、絵を描けると3Dで作る前に、もう頭の中で絵が出来上がってるからやねん。ようするにやねぇ~今からこういうものを作りますっていう時に、先にもう作りたいものが頭の中で描けているから、アプローチがもう違うねん。わかる?」「う、うん・・・わかるような気がするかな・・」「わかってへんやろ?」えっ?なんでわかるの?顔に出てる?「ようするにやね、完成形が見えてるから制作のスピードが違うねん」 !!! なるほど!そういうことか。ということは、人よりも早く作れるから修正時間も沢山取れるし、早く作ればもっと違うところも見えてきて、もっともっと自分のこだわりを盛込ませていけるって訳か!!「そういうことやでぇ~」

なるほど、そういえば、近頃、確かに彼はいつも私よりも作る時間が短いくせにちゃんと制作できている。はじめの頃は遅くてディレクターにプチギレされたりしていたが、あの時はツールをまだ完全に把握していなかったからだ。そして更に、よく考えてみると、この時点で彼の制作スピードはかなり速いものになっていることに気づいた。と同時に、私も絵を描く時間だけでなく、彼と互いにアドバイスを出し合ったりする時間が増えると、自分の内にあるアナログとデジタルのスキルが、共に微妙な成長曲線を描いている事を意識せずにはいられなかった。

この時、自分が狭い場所に落ち込んでしまっているのに驚いた。目の前にある「作る」ということに囚われ過ぎて、大きい視野での「モノ作り」が見えなくなってしまっていた。自分が勝手に思い描いていた「こだわり」は、自分の足枷にしかなっていなかったことにようやく気づいた。ちょっと特殊なモノ作りの世界に入ったからといって、自然に上達する訳でもなければ、勝手にプロになっていく訳でもない。もっと意識して物事を捉えて、もっと様々な角度から考えられるようになって、もっといろんな知識を吸収しないことには、恥ずかしくて「クリエイター」なんて言えない・・・。考える力は考える経験を通してしか身につける事が適わないのだ。そして、その先に自分の行動を照らし合せることが出来るようになっていかなければ、クリエイターとしてはもちろん、人としての成長は望めないに違いない。酔いも吹き飛んだ居酒屋の帰る道すがら、頭の中をいろいろな思いが駆け巡った。

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